大学時代は「福祉を理解する経済人」として幅広い分野を学び、卒業後は不動産業へ就職しました。不動産会社では20年弱のキャリアを積み、2003年念願であった独立を果たし株式会社レアルを創業します。衣食住の「住」という生活に密着した事業である不動産業に従事していると、様々な問題に直面することがあります。そのひとつが「相続問題」です。
資産を所有している人であれば、どんな人でも相続という問題は発生します。土地という不動産を扱う私にとっては、切っても切れない問題です。お客様から土地を売りたいと相談を受けて、登記簿を調べてみるとそのお客様の名前は記載されておらず、曽祖父や曾祖母など何代も前の人が所有者となっているケースも多くあります。既に亡くなっている人が土地の所有者である場合は、全ての相続人が土地を所有する権利を有しているため、相続人の全てに土地の販売許可を取り付ける必要があるのです。
相続に端を発するトラブルは土地売買に関してだけではありません。しかし、どんなトラブルであっても相続問題の最も悲しい側面は、兄弟間などの近親者での争いに発展してしまうということだと思います。両親が元気なうちは、兄弟仲良くしていたものの、両親が亡くなり相続が発生した途端に、様々な思惑が交錯し紛争に発展する様は、亡くなった両親からしても望まない姿ではないでしょうか。しかし、資産を巡って争う兄弟が相続問題の元凶ではありません。資産を所有する本人、つまり両親たちが自身の亡き後に所有する資産をどう配分するのかについて協議し決定していなかったことが全ての元凶なんです。
30年以上の不動産業での経験の中で、私も悲しい現場にいくつも遭遇してきました。その中には、生きているうちに対策をしていれば引き起こされなかったトラブルも数多くあります。相続という問題を身近にとらえ、自ら対策をしてくれるような環境づくりの必要性を強く感じていました。それを形にすべく、2014年相続問題や終活についての啓蒙活動を行うNPO団体として「福岡終活・相続支援センターみらいあん」(以下、みらいあん)を設立するに至ります。
現在では会員数も40名以上となり多くの会員様からご協力いただいている団体ではありますが、設立当初から順風満帆というわけではありませんでした。当初は相続問題の啓蒙や解決の提案を主軸として各地域でのセミナー活動を中心に展開する予定ではありましたが、活動開始早々に最初の壁にぶつかることになります。
各地域の公民館や市民センターなどを会場として「相続セミナー」を開催するつもりでいましたが、活動実績も無く名前も知れ渡っていないNPO団体に貸してくれる会場などありませんでした。しかし、諦めるわけにはいきません。福岡市内にある公民館を1件1件周り、団体の活動について説明することを根気強く続けました。数ヶ月続けていくうちに、施設管理者が相続問題の重要性に理解を示してくれる機会も増えていきました。そして、ついに会場使用の許可が降り、セミナーを開催できる環境が整ったんです。当初は数名であったセミナー参加者も、回を重ねる度に少しずつ増えていくようになり、満員になることも珍しくありませんでした。
相続という切り口で終活全般を語っていましたが、セミナー参加者たちと話をしていくうちに、一人暮らしの高齢者や地域で孤立を感じている方の存在を知ることになっていきます。相続への対策をすることは重要ではあるけれども、その前に解決すべき問題もあるのではないかという想いが湧いてきたんです。そして、2015年に「ぶらウォーク福岡」というイベントを立ち上げます。
ぶらウォーク福岡は、大濠公園や春日公園などのウォーキングコースを会場として、様々な世代と一緒にウォーキングを楽しむイベントです。ただ単に歩くのではなく、自分の目標や夢を書いたカードを胸に掲げ、参加者同士で交流を図りながら共に汗を流すことができます。そして、参加者が歩いた距離は日本地図上に加算されていき、最終的には日本一周を成し遂げ、参加者の願いが書かれたカードを一枚の旗にして太宰府天満宮に奉納することを目標としています。
イベントを通してウォーキングを習慣づけることで健康的な体を獲得し、継続的に参加することで仲間を増やすことにつながります。また、夢や目標を文章として明文化することで、これからの人生をどう生きるのかを具体的に想像し、生きる活力が湧いてきます。今では地域での孤立を防ぎ、健康的な心身を獲得するためのきっかけとなるイベントとして認知され、23回の開催を積み重ねてきました。
健康な心身を獲得して、はじめて終活をする土台が形成されるのではないでしょうか。ネガティブな状況で終活へ取り組んだとしても継続することは難しいものだと思います。ぶらウォークというイベントを通して、孤独の解消・健康づくり・仲間づくりを推進していきたいと考えています。
福祉の心と表裏のない姿
相手が偉い方であろうと生活困窮者であろうと何も変わりません。誰に対してもありのままで接している姿がいつも印象的です。社内でイベントや施策を会議する際には、いつも弱者側の目線に立って意見することも多く、福祉大学での学びが生き方の芯になっているように感じています。
人柄に集う会員達
NPO法人と株式会社の運営という多忙な日々を過ごされている中で、イベントの立案や企画など様々な施策を次々にこなしていく姿は真似できるものではありません。事業運営を行うため厳しい側面もありますが、それ以上に陽気な側面を兼ね備えた表裏のない人柄が多くの会員を引き付ける魅力だといつも感じています。
現在みらいあんでは終活・相続の啓蒙活動として「終活セミナー」を開催したり、生活困窮者向けの「居住支援」活動や、子供たちへの支援として「こども食堂」を毎月開催しております。今後は「孤独孤立支援」に注力していきたいと考えています。
福岡市内に住む60歳以上の4人に1人は単身世帯であり「近所付き合いが少ない」と感じているという調査も出ており、潜在的に孤独を抱えている人々は毎年増加傾向にあります。外出もせず、一日だれとも話さないという環境は心身の健康という側面からみても、決して良いものではありません。
NPO団体としてできることは、行政の光が当たらない部分にいる人々を見つけ出し、継続的な支援を行っていくことだと思っています。支援を必要としている人々の声なき声に耳を傾け、今後も積極的な施策を展開していきたいと考えています。