日本における障がい者の総数は約1200万人(参照:令和5年度版障害者白書)毎年その数は増加し続けている。超高齢化社会の影響も色濃く、高齢者の障がい者認定が増加していることも要因のひとつだ。それ以外にも、障がいへの社会的認知が広がったことで、今までは見落とされてきた「発達障がい」などに対しても近親者が気づき、診断が付されたことも要因にあげられるであろう。見過ごされてきた障がいが認知されるということは良いことである反面、増加する障がい者へ対しての支援は、まだまだ充足しているとは言えない。
今回は、障がい者福祉事業を運営しているNPO法人風のつばさ理事長福田崇氏をお招きし、就労継続支援事業、そして、そこで扱う商材についての思いを語っていただいた。
【NPO法人 風のつばさ 理事長:福田崇】
〜NPO法人 風のつばさとは…〜
NPO法人風のつばさは佐賀県基山町に2009年に設立された団体であり、現在は多機能型事業所として運営されている。広大な敷地の中には、障がいを抱えた方々が一般就労を目標に就労訓練を行う「就労継続支援A型B型事業所」と利用者が共同生活をおくる「グループホーム」が併設されている。就労訓練の内容としては、給食や弁当事業、ニホンミツバチの養蜂、野菜の選果作業などがあり、利用者のできることに合わせて作業に取り組むことが可能となっている。また、A型とB型の作業所が併設されているため、利用者目線でも具体的なステップアップをイメージしやすく、働くモチベーションにつながっている。
現在福田氏が理事長として運営している風のつばさであるが、2006年に福田氏の両親によって設立された。団体の立ち上げ段階から両親のいきいきと働く姿を、もっとも近くで感じながら「いつかは、自分もこの施設の一員として、障がい者福祉に関わっていきたい」と強く思うようになっていった。
〜看護師は天職!?〜
福田氏のキャリアのスタートは障がい者関連の職業ではなく、意外にも看護師であった。看護師を選んだのは、家業である障がい者福祉事業において、医療現場での経験が必ず活きてくるという考えがあったからだ。つまり、看護師になることは到達点ではなく、福田氏にとっては通過点の一つに過ぎなかったのである。
看護師として10年弱の期間で、呼吸器病棟や集中治療室を担当することになる。特に命の危機にある患者さんを日々相手にする集中治療室での経験は福田氏にとって大きな財産となった。医師を含めた様々なコメディカルと連携をはかり、チームで患者さんを回復へと向かわせる仕事は、大きなやりがいが得られるものであった。また、知識がなければ患者さんの命を危険にさらしてしまうという厳しい環境は、福田氏をひと回りもふた回りも大きく成長させたのだ。
「もう少し看護師として続けたい気持ちもありましたね」福田氏は、看護師という仕事を「天職」だと語った。通過点という位置づけであった看護師の仕事は、いつしか天職と思えるほど価値のあるものになっていた。
その頃、風のつばさでは、スタッフを抱えながらも朝から晩まで多忙を極めていた。福田氏の両親も疲弊する中、いよいよ息子に助け舟を求めたのだ。そして、福田氏は白衣を脱ぎ、正式に風のつばさの一員として新たなスタートを迎えることになる。
〜フランス式アロマにかける思い…〜
「どうしたの?顔色悪いよ」福田氏は就労所に来た利用者の顔色がいつもに比べ悪いことに気づく。体調不良の原因を探ろうと利用者にヒアリングしてみると、ある可能性にたどり着くことになる。それは「睡眠導入剤による副作用」。障がい者の中には、不眠症を抱え睡眠導入剤を常用している人も多い。しかし、体調不良となっても減薬を望む声は聞こえてこない。それは、服用量を抑えると眠れなくなるという恐怖心からくるものであった。
福田氏は医療現場での経験から、医師が薬に頼った対処療法を選択することが多いことは熟知しており、そこに疑問を感じている一人でもあった。睡眠導入剤は飲み続けることで、不眠が解消するような根治目的の薬ではなく、あくまで一時的な効果にすぎない。その一時的な効果を得るために、体調不良という大きな代償を支払うことに福田氏自身、納得がいかないのだ。
睡眠導入剤を減薬する方法はないのか…多方面へ情報収集を行っていると、ある製品に巡り合う。それが「フランス式アロマ」であった。私達が目にするほとんどのアロマはイギリス式アロマと呼ばれ、癒やしやリラックスを目的として使われることが多い。一方、フランス式アロマは欧州では不眠症の治療に広く使われるなどイギリス式アロマとは違った側面を持っている。
長年にわたってフランスで広く使用されている実績と効果効能への期待値の高さから、睡眠導入剤や向精神薬を常用している利用者に減薬をうながす、一筋の光として「フランス式アロマ」を施設に取り入れることを決めたのであった。
現在、利用者向けにアロマを使用してもらい不眠の解消や、うつ症状の軽減がはかれるかの検証中ではあるが、概ね良い結果を示している。「アロマで不眠が改善に向かったり、減薬をすることができれば…きっと、薬によって不調を抱える多くの人の救いになれると思っています」と福田氏は力強く語った。
〜やりがいの創出のために…〜
不調を抱える利用者への減薬をうながすためにアロマ導入に踏み切ったが、アロマは福田氏にもう一つ大きな気づきをもたらすことになる。それは、就労継続支援事業所によるアロマストーンの製造だ。利用者は就労所で作業を行うと、工賃と呼ばれる報酬を得ることができる。この報酬は全国平均で約17000円/月程度であり、一般就労と比べて大幅に低い。福田氏は、この工賃を上げることで利用者の働く意欲ややりがいの向上を目指している。そのためには、単価の高い仕事を民間企業から受託する必要があるが、そのハードルは極めて高い。
そこで目をつけたのが、アロマストーンである。石膏を使用した一般的なアロマストーンは、特別な技術がなくとも制作することができ、就労訓練として利用者にも作ることが可能だ。福田氏が確かな品質のフランス式アロマを取り扱うことで、アロマストーンの販売も同時に行うことができ、収益は利用者の工賃へ還元することができる。
「行政に頼ってばかりでは、いづれ利用者も団体も縮小せざるを得なくなる。自分たちの足でしっかりと立ち、歩みを進めるために、アイデアと工夫で活路を見出していく」と決意を語る。今後は、シンプルなアロマストーンだけでなく、利用者個人個人の特性を活かして、アーティスティックなアロマストーンや絵画が描かれたものなどを考案中とのことだ。福田氏のリーダーシップとアイデアで、新たな障がい者福祉の形がまもなく見えてきそうだ。
次回は【こども食堂!!】