NPO法人福岡終活・相続支援センターみらいあん総務部長【高瀬玲子】


「支援する側される側」

私の中で「支援する側、される側」という明確な境界線はありません。現在、NPO法人みらいあんに所属し生活困窮者支援を行っているため、他から見れば「支援する側」のように映るのかもしれませんが、私の中では「支援する側」だという意識は持っていないんです。

人に寄り添い、痛みや喜びをともに分かち合い、成長へとつながっていく。支援する側、される側も同じ社会の中で手を取り合いながら共生しています。私はみらいあんを通して生活困窮者へ住まいや食料を支援していますが、私は彼らから新たな視点や考え方を学ばせて頂いているんです。つまり、私もある意味では「支援される側」なんですよ。何事も一方向からの視点だけでは見えないものがありますよね。

「今朝、市内の竹林の中で1000万円の入ったカバンが見つかりました。県警は周辺住民へ聞き込みを行い、所有者の―――」昭和の終わりごろ、私は幼稚園生ぐらいだったでしょうか、祖父の家のテレビからそんなニュースが流れていました。「おじいちゃん。1000万だって。拾った人はいいな〜」思ったことをすぐに言葉に出すと、祖父は「玲子。そのカバンを落とした人はどう感じると思う?すごく困っているんじゃないかな。」湯呑みに入ったお茶をひとすすりした後に、私を見つめ優しく祖父は問いかけたんです。

物事の見方は1つではありません。むしろ、1つであってはいけないんです。私はカバンを拾った人の気持ちを代弁したのかもしれませんが、祖父はカバンを落とした人の心を考えることを教えてくれました。ほんの5分にも満たないやりとりだったと思いますが、その考え方は今の私の心にしっかりと刻み込まれています。


NPO法人みらいあんとの出会いは、事務局長である三戸さんからの紹介でした。私が偶然参加した異業種交流会でみらいあんの活動を知り、興味を持つようになったという経緯ですね。

みらいあんは終活相続支援センターという名前がついていますが、その活動の幅は広く、こども食堂では地域の子どもたちや子供を抱える親たちへの支援を行い、終活セミナーや相続相談では高齢者本人や高齢な両親を持つ子供世代の支援を行っています。また、ぶらウォーク福岡では、地域の全世代へのつながりをイベントを通して構築し、孤独・孤立を抱える人々への支援にも尽力しています。

そういった、特定の誰かにのみ焦点を当てた支援ではなく「困っている人」という大きな枠組みの中で、できる範囲の支援活動を行っている点に共感し、力になりたいと思うようになりましたね。


社会問題として日本が抱えている課題は数多くありますが、その多くは「人とのつながり」を再構築することで解決への糸口が見つかることも多いと感じています。孤独孤立問題にはじまり、子供の貧困、DV虐待、自殺など、その根底には「つながり」が希薄となり孤独を抱える環境で生まれる問題も数多くあります。人間は社会性のある動物です。誰かと関わり、支え合い、信頼しあうことで苦難を乗り越えてきました。ひとりぼっちで生きていけるようには設計されていないのかもしれません。

残念ながら日本において「孤独・孤立」を抱える人々の数は右肩上がりを示しています。あらゆる問題の根底にある「孤独・孤立」を解消するためには、昭和の時代のように家族、地域、社会での関係を再構築していく必要があります。そのためには、人々が集まれる場所を作ることが重要です。

今後はイベント企画に注力していきたいと思っています。孤独を抱えている人々にとって「寂しさを感じている人は、ここに来てください」と言ったところで、きっとだれも足を運ぶことはないでしょう。しかし、参加に興味をそそられるようなイベントが近所で開催されるのであれば、もしかしたら足を運んでくれるかもしれません。参加いただければ、彼ら彼女らの声を聞くこともできるでしょう。そして、イベント自体が楽しいものであれば、また参加してくれるかもしれません。そうしているうちに、何度も顔をあわせていき、仲間ができコミュニティーが形成されていくのだと感じています。

単なるイベントではなく、興味を引き、楽しめるイベントを通して、人々が自然と集まり、声を交わし、結びついていける場を提供していきたいと考えています。